JOHN SMEDLEY
夏から秋は、この一枚で決まる。ジョンスメドレーの30ゲージという答え
九月の半ばから十月のはじめ。一年でいちばん、服が決まらない時期です。
Tシャツ一枚では、朝晩が寒い。かといってニットを引っ張り出すと、昼には汗をかく。ジャケットを羽織れば解決しますが、それはそれで気負って見える日もあります。
この数週間を埋めるために作られたような服が、ひとつだけあります。ジョンスメドレーの30ゲージニットです。
今回は、このブランドだけを取り上げます。何が違うのか、どの型を選べばいいのか、そして買ったあとにどう扱うか。順に見ていきます。
九月のニットは、薄ければいいわけではない

この時期に「薄手のニット」を探すと、たいていコットンの春夏用が出てきます。
ただ、それでは夕方に寒くなる。薄いけれど保温しない素材だからです。
逆に、秋冬用のウールニットは保温しますが、昼間の二十五度には耐えられません。
この時期に必要なのは「薄くて、なおかつ保温する」という、本来は両立しにくい条件です。それを成立させるのが、繊維の細いウールを、極端に細かい針で編むという方法になります。
九月の一枚に必要なのは、薄さではありません。
薄いのに保温する、という矛盾を素材と編みで解いていることです。
1784年から、同じ工場で編み続けている

ジョンスメドレーは、イングランド中部ダービーシャー州の「レアミルズ」で1784年に始まりました。
特筆すべきは、二百四十年経った今も、同じ場所で作り続けていることです。ブランドの多くが生産地を移していったなかで、ここは動いていません。稼働し続けている製造工場として世界最古、と自ら名乗っています。
2024年、創業240年の年に、チャールズ3世からロイヤルワラント(英国王室御用達)を授かりました。
ただ、歴史そのものは服の良し悪しを決めません。大事なのは、その二百四十年が何に使われてきたかです。答えは単純で、ほぼニットだけに使われています。
コートも靴も作らず、ニットの型と編みの精度だけを更新し続けてきた。だから同じメリノウールを使っても、仕上がりが違ってきます。
30ゲージという密度が、何を変えるのか
ゲージとは、編み機の針の密度のことです。数字が大きいほど、編み目は細かくなります。
一般的なハイゲージニットは12から16ゲージあたり。ジョンスメドレーの主力は30ゲージです。倍の密度で編まれている、と考えてください。
目が細かいと、生地は薄くなります。同時に、編み目のすきまが小さくなるので、風が通りにくくなる。この「薄いのに風を止める」状態が、ちょうど九月から十月の気温に噛み合います。
もうひとつ、見え方の話があります。30ゲージの表面は、ニットというより上質なカットソーに近い。凹凸が少ないので、光が乱反射しません。だから一枚で着ても、部屋着に見えないわけです。
30ゲージが効く場面
- 一枚で着る日 表面が平らなので、Tシャツの上位互換として成立する。首まわりが整うぶん、顔が締まって見える。
- ジャケットの下 厚みがほぼないので着膨れしない。シャツの代わりに入れても肩のラインが崩れない。
- 冬のインナー 真冬は一枚では寒いが、コートの下に入れると保温層として効く。秋だけの服ではない。
- 移動の多い日 シワになりにくく、畳んでもかさばらない。出張や旅行の一枚として強い。
では、どの型から入るか。代表的な3つを順に見ていきます。
1|HARCOURT(ハーコート)— 首を少しだけ詰める

最初の一枚に薦めるなら、モックネックのハーコートです。
タートルネックほど首を覆わず、クルーネックよりは詰まっている。この中間の高さが、九月にちょうど効きます。
理由は二つあります。ひとつは実用で、首の後ろが隠れるだけで夕方の体感がはっきり変わること。もうひとつは見え方で、首元が締まると顔まわりの輪郭が出て、Tシャツ一枚のときのぼんやりした印象が消えます。
首の短い人がタートルを着ると詰まって見えますが、モックならその心配がほとんどありません。タートルが苦手だった人ほど、こちらは着られます。
HARCOURT|モックネック 30ゲージ メリノウール
メリノウール100%、30ゲージ。イングランド製。カラー展開が広く、最初の一枚はネイビーかチャコールが扱いやすい。サイズはS・M・L。
同じハーコートでも、ゆとりのある「スタンダードフィット」で探したい場合は、こちらの取り扱いがわかりやすくまとまっています。
HARCOURT|STANDARD FIT(全8色)
同じハーコートのスタンダードフィット。細身が苦手な人はこちらから。色で迷うなら、手持ちのパンツに合わせて濃色から。
2|DORSET(ドーセット)— 襟のある、長袖のニットポロ

ハーコートが「Tシャツの上位互換」なら、ドーセットは「シャツの言い換え」です。
長袖のポロネック。襟があり、前立てにボタンが並びます。ニットでありながら、襟が立つぶん顔まわりに構造が出る。だから、ジャケットを羽織っても上半身が緩みません。
この型が便利なのは、夏から秋への移行がそのまま服の上で起きるところです。九月の前半は一枚で、後半はジャケットの下に。同じ服のまま、気温だけが下がっていく。
シャツの代わりに着られるので、仕事着を少しだけ崩したい日にも使えます。ネクタイを外した日のシャツより、こちらのほうが意図が伝わります。
DORSET|長袖ポロネック 30ゲージ メリノウール
メリノウール100%、30ゲージ。イングランド製。ブラック、チャコール、ミッドナイト、ナツメグなど。襟が立つので、ジャケットの下でも上半身が緩みません。
3|BERNARD(バーナード)— 脱ぎ着で調整する

気温が一日のなかで大きく動く時期は、脱げる服がいちばん楽です。
バーナードはVネックのカーディガン。ゆとりのあるイージーフィットで、素材はメリノではなくシーアイランドコットンです。
シーアイランドコットンは、繊維が長く細い綿です。糸にしたときの表面が滑らかで、独特の光沢が出る。綿でありながら、安っぽく見えない理由がここにあります。
九月はまだウールが早い、という日もあります。そういう日は、綿のカーディガンのほうが体感に合います。前を開けて羽織り、寒くなったら閉じる。それだけで一日ぶんの温度差に対応できます。
Vネックなので、中はTシャツでも白シャツでもいい。どちらでも成立するのが、この型の使いどころです。
BERNARD|Vネックカーディガン シーアイランドコットン
シーアイランドコットン100%、イージーフィット。袖口と裾はリブ。S〜XL(2L)。ウールが早い日の羽織りとして。
一枚で着る日を増やしたいなら、ハーコート。
シャツの代わりに使いたいなら、ドーセット。
朝晩の寒暖差が大きいなら、バーナード。
フィットとサイズ。ここだけは慎重に
ジョンスメドレーには、同じ型でもフィットの違いがあります。細めのスリム、標準のスタンダード、ゆとりのあるイージー。表記はモデルや年式で変わるので、商品ページの記載を必ず確認してください。
30ゲージは生地が薄いぶん、体の線をそのまま拾います。太って見えるのを恐れて大きめを選ぶと、今度は肩が落ちて生地が余り、かえってだらしなく見えます。
見るべきは肩と着丈です。肩の縫い目が肩先に乗っていること。着丈はベルトが少し隠れる程度。この二点が合っていれば、胸まわりに多少の余裕があっても破綻しません。
日本のサイズ感より一枚分ゆとりがある、と言われることもありますが、型によって差があります。通販で迷ったら、手持ちのニットの肩幅と着丈を測って、商品ページの実寸と突き合わせるのが確実です。
サイズ選びの実務
- 肩の縫い目 肩先に乗っているか。落ちているなら一サイズ下げる。
- 着丈 ベルトが少し隠れる程度。短すぎると腕を上げたときに腹が出る。
- 袖丈 手首の骨が半分隠れるくらい。リブが余ると全体がもたつく。
- 実寸で比べる S・M・Lの表記より、手持ちの一枚を測って突き合わせるほうが早い。
買ったあと。ここで寿命が決まる

30ゲージは、編みが細かいぶん型崩れしにくい素材です。ただし、扱い方を間違えれば、細い糸だけに傷むのも早い。
いちばん多い失敗は、ハンガーに吊るすことです。薄手でも重さはあります。肩と首が伸びて、一度伸びたら戻りません。畳んで棚に置いてください。
連続で着ないことも効きます。一度着たら二日休ませる。湿気が抜けて、摩擦でできかけた毛玉が落ち着きます。
洗うときは洗濯表示に従って、平らに干すこと。吊るすと水の重みで伸びます。この考え方は素材が変わっても同じで、大人の秋ニットの選び方でも触れています。
シーズンの終わりには、しまう前に必ず洗ってください。皮脂が残っていると虫がつきます。ここだけは省かないでください。
吊るさない。連続で着ない。しまう前に洗う。
この三つで、十年着られるかどうかが変わります。
まとめ:夏と秋のあいだを、一枚で越える
九月から十月にかけての数週間は、薄くて保温する服がないと乗り切れません。30ゲージのメリノウールは、その条件をほぼ唯一満たす答えです。
一枚で着る日を増やしたいならハーコート。シャツの代わりに使いたいならドーセット。朝晩の寒暖差が大きいならバーナード。
サイズは肩と着丈で決める。買ったあとは吊るさず、畳む。
季節の変わり目に慌てて何枚も買うより、この一枚を先に持っておくほうが、結果として服は減ります。
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※掲載している情報は記事公開時点のものです。価格・在庫・カラー展開は変動する場合があります。
WARDROBE LAB編集部のひとこと
編集部にも、ジョンスメドレーを十年以上着ている人間がいます。
買ったときは高いと思ったそうですが、毎年九月に必ず手が伸びて、いまだに現役だと言っていました。一年あたりで割れば、量販店のニットを毎年買い替えるのと変わりません。
ただし、それは畳んで保管していた場合の話です。吊るしていた一枚は、三年で首が伸びたそうです。